
1. 荷重計算は“条件設定”が 9 割
荷重計算で最初にして最大の関門は**「どの部材に、いつ、どこから、どんな力が作用するか」を正しく掴む**ことです。
条件が少しでも間違っていると、出てくる応力・変位はまるで別物になります。とくに初学者は、
力の大きさ(重力・慣性力・作動力・衝撃など)
作用方向(3次元空間でのベクトル)
作用点と支持条件(固定・ピン・スライダー・ばね支持など)
を紙に書き出し、ベテランに見てもらう習慣を徹底してください。“計算ミス”より“条件ミス”のほうがはるかに怖い――これが現場の常識です。
2. 5大基本応力とその一次式
応力計算の基礎は 引張・圧縮・せん断・曲げ・ねじり の5つ。覚えるべき一次式はわずかですが、組み合わせて使えるようになるまでが修業です。
荷重 主式 (σ, τ は応力) ポイント
引張 (Tension) σ = F / A 広い断面積ほど有利
圧縮 (Compression) σ = F / A 細長いもの、大型構造物は座屈に注意
せん断 (Shear) τ = F / Aₛ 許容応力は引張、圧縮より低いので注意
曲げ (Bending) σ = M / Z Mは曲げモーメント、Z は断面係数
許容応力は引張、圧縮と同じ
ねじり (Torsion) τ = T / Zp Tはトルク、Zpは極断面係数
許容応力はせん断と同じ
Tip: 計算結果は単位を必ず添えてメモ。材料許容応力と次元で比較しやすくなります。
3. 実務では“単独荷重”より“複合荷重”
クレーンのブーム、ロボットアーム、昇降装置――現実の部材はたいてい同時に複数の荷重を受けます。
例)スプライン軸
引張 + 曲げ → 引張曲げ応力
曲げ + ねじり → 曲げせん断応力
複合応力の代表的評価法
ミーゼス応力 (J2 理論) : 鋼材に多用
最大主応力 (Rankine) : 脆性材料向け
最大せん断応力 (Tresca) : ボルト・シャフトの安全側
4. “強度”だけではなく“たわみ・摩擦”も忘れずに
たわみ(変位)が大きいと、噛み合わせギヤが外れたり、ベアリングに偏荷重が乗ったりします。
摩擦力はスライドレールやリニアガイドで無視できない抵抗。予荷重が変われば計算条件も変わる。
精密機器や高速機構では、応力より許容変位が支配条件になることも多い点に注意してください。
5. CAE の“便利さ”と“落とし穴”
最近はクラウド CAE や無償ソフトで、初心者でも解析画像を簡単に出せます。しかし、
メッシュの粗さや境界条件の与え方で結果は劇的に変わる
CAE が示すのは“解析モデル”の応力。現物の応力ではない
同期チェックせずに報告書へ貼り付けると、後で解析理由を説明できず信用を失う
まずは手計算で概略値を求め、CAE 結果と ±10 ~ 20 % 以内か確認する――これが王道です。
CAE の使い分け(線形・非線形・座屈解析・接触解析など)の詳細は別記事で掘り下げます。
6. “手が覚える”まで回数をこなす
荷重計算を自在に扱えるエンジニアは、例外なく何百回・何千回も計算しています。
フェーズ 目的 推奨アクション
学習期 公式を身体に入れる 例題を 100 題手計算、ノートに整理
実務初期 条件設定力を養う 現場機構の荷重をスケッチ&計算、
先輩にレビュー依頼
熟練期 概略見積りの高速化 「頭の中の FBD※」で一次判定
→ CAE で裏付け
※FBD:Free Body Diagram(自由体図)
7. まとめ ― 荷重計算を武器にする3か条
条件設定を疑え:力の大きさ・方向・拘束を紙に書き、必ずレビュー。
基本5荷重を組み合わせて考える:単独式では終わらない。
手計算で感覚を養い、CAE で裏付ける:順番を守れば設計スピードも信頼性も上がる。
✏️ 次の一歩
片持ち梁・両端支持梁・円管トルク軸の3題を、荷重パターンを変えながら 1日1回 手計算してみましょう。
可能なら古い図面(クレーンのガーダーなど)を入手し、設計者がどんな計算条件を置いていたか読み取ってみると理解が深まります。
“条件がわかれば答えは紙と鉛筆で出る”。荷重計算は機械設計者にとって最強の時短スキルです。地道な手計算の積み重ねで、構想設計のスピードを一段引き上げていきましょう。